見失っていた「己の山道」がチラッと見えた夜の話し。

2019年5月2日。
岐阜市の小さなライブハウス、ClubG。
NakamuraEmiさんのアルバムリリースツアー。
ボーカル、ギター、ヒューマンビートボックスのミニマム編成。

編成やセットリストが同じでもどれ一つとして同じにはならないライブ。もうあの同じ空気を吸うことはできないと思うと少し悲しくなってしまうほど、素敵な夜でした。

https://https://twitter.com/nakamura_emi/status/1123927807665561600.com/nakamura_emi/status/1123927807665561600
http://twitter.com/nakamura_emi/status/1123927807665561600
 
2018年5月22日に同じライブハウスで同じ位置付けのツアーライブに参加したのが彼女が歌う姿を見た初めての瞬間でした。
 
まだ一年経っていないんですね。
 
その時は半分埋まったぐらい。火曜日の夕方と言うこともあって、「こんなもんなんだろうな」と思いつつ、内向的な詞を書く、恐らくは繊細であろう彼女が傷つくんじゃないかと勝手な妄想をしてハラハラしていたことを思い出しました。
 
 
今年に返りましょう。
当日券の販売もあったようなので、「満員御礼」だったのかは判りません。
ですが、その晩の熱気は彼女とスタッフのこの一年の努力がより多くの人に彼女の歌を届けたことを何よりも確かに示していました。
 
客席の変化も大きかったのですが、彼女にも変化が感じられました。
これまであまりなかったコール&レスポンスのリクエスト。MCで客席と対話することで場を暖める手際はこれまでも彼女のストロングポイントでしたが、多分「要求」することが苦手なのかレスポンスをリクエストすることはほとんどなかったように思います。
ラストナンバー「YAMABIKO」ではフロアーに降りての熱唱。ブルーノート名古屋で客席に降りる姿は見ていたのですが、その時は完全着座の「ディナーショー」に近い状況です。実際間近で見ても小柄な彼女がライブハウスの立ち客の中に入るのは勇気の必要なことではないかなと思います。
準地元でGW中と言うこともあって関東圏から遠征してきた「常連さん」もみえたようです。客層に対する信頼感がそうさせたのかもしれません。
 
僕は新アルバム収録曲を製作する過程で彼女自身が強く意識するに至った「自分であることを認め、自分であることを誇りたい」と願う気持ちが背中を押していたんじゃなかろうか、なんて想像もしました。
 
「私がお母さんになったら」
「甘っちょろい私が目に染みて」
「痛ぇ」
中盤に入って新アルバム収録曲が三曲並べられました。どれも彼女の「変化」に対峙する決意が感じられる曲です。
歌い終え、給水インターバルから振り返った彼女の表情は曲から背中を押されたような強い決意を感じるものでしたから。
 
 
カワムラヒロシ氏との出会いはMCの十八番ネタではありますが、この日はいつもより踏み込んでその時の様子が語られました。
 
「私、そういうの騙されませんから」
と氏からの誘いを当初断った様がコミカルに、でもリアルに。
 
それから、現マネージャー氏と出会い、「痛ぇ」で描かれている竹原ピストル氏のテイブに衝撃を受けてメジャーデビューを決意。
 
人に導かれ、決意は後から付いてくる。
野心が無いと言えばそう。
運が良いと言っても良いのかもしれません。
 
人と出会い次のステージに進むことは彼女の内面に変化をもたらしただろうと思います。

でも、変化の前後に書かれた曲を比較しても自分の身の丈のうちにあることしか語らない彼女の姿勢には変化がないように見えます。
 
 
以前の上司がアーティストのライフサイクルについて興味深い自論を語ってみえまして。
自己承認を求めて曲を作り、その飢餓感が共感され、いずれ認められるに従い歌うべきなにかを失って埋没していく。
そうならなかった事例も多くありますが、自分とNakamuraEmiさんを重ね合わせていた当時の僕は、そうなったら彼女はどうなるだろうと思ったことを覚えています。
 
望外な成功が、あるいは理不尽な凋落が訪れたとしても、そしていつか彼女の渇望する何かが満たされたとしても、彼女は自分の身から零れた言葉を拾い、歌い続ける気がします。
 
 
この一年僕は頑張りが認めてもらえなかったり、良くも悪くも誤解されたり、他人から見える自分の像に惑い、気付けば折角掴んだものをいくつも見失っていました。

 

一時期は念仏のように日々唱えていた

「過去と未来と他人は変えられない。

どうにかできるのは自分と今この瞬間だけ」

あれだけ大事にしていた、こんなにシンプルなことでさえも綺麗に頭から消えていました。
 
この日のアンコールナンバーは「モチベーション」。
探し物のヒントをもらった上、背中まで押してもらいました。


手に入れたと思っていたのに失くしてしまったものをもう一度探すのはしんどい作業です。

たどり着けるかどうか、自信はありませんが、とりあえずまた一歩ずつ登ってみたいと思っています。